先日、私の勤務する薬局で偽造処方せんの持ち込みがありました。
持ち込んだのは80歳を超えた男性。
当薬局には2年ほど前から処方せんを持ち込んでいます。
預かった処方せんに違和感を覚え、本人に問い正したところ、あっさりカラーコピーであることを自供しました。
処方せんをコピーして薬の交付を受けようとすることは犯罪であることを伝えると、
「10年以上もやってるのに、なんで今更言ってくるんだ!!」
という完全な逆切れをしてくる始末。
今更も何もなく、原本があるならそれを持参するように伝えて帰って頂きました。
後日、原本を持参して来局したときに、前回の対応が気に食わなかったとのクレームを延々と大声で話されていました。
本人いわく、処方せんをコピーして薬のメモを書き込んでいたそうです。
使用後は廃棄していたそうですが、原本を廃棄していたのは想像に難くありません。
目次
処方せんをコピーして薬を出してもらったら犯罪です
処方せんは私文書に当たります。
私文書に関する処罰は刑法の159条で規定されています。
(私文書偽造等)
第159条 行使の目的で、他人の印章若しくは署名を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を偽造し、又は偽造した他人の印章若しくは署名を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を偽造した者は、3月以上5年以下の懲役に処する。
2 他人が押印し又は署名した権利、義務又は事実証明に関する文書又は図画を変造した者も、前項と同様とする。
3 前二項に規定するもののほか、権利、義務又は事実証明に関する文書又は図画を偽造し、又は変造した者は、1年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。
ここで言う偽造と変造ですが
偽造=コピー
変造=書き込み、修正
処方せんにおいてはおおまかにはこのような解釈で良いかと思います。
コピーは言わずもがな、処方せんの内容に変更を加えることも禁止です。
例えば、ロキソニンが欲しいからといって勝手にロキソニンを書き加えたり、処方日数や数量を変更するといったことも禁止です。
向精神薬や麻薬が含まれた処方せん
偽造処方せんが多いのは何といっても精神領域の薬の処方せんでしょう。
この場合、麻薬及び向精神薬取締法の第70条14号に規定されています。
(麻薬及び向精神薬取締法)
第70条 次の各号の一に該当する者は、1年以下の懲役若しくは20万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
十四 麻薬処方せんを偽造し、又は変造した者
刑法、麻薬及び向精神薬取締法どちらも適用されます。
偽造処方せんの見分け方
さて、実際に怪しい処方せんが来た時にどこでコピーかどうかを見分ければ良いでしょうか。
ポイントをお伝えしていきます。

部位①印鑑を確認しよう
一般的な処方せんにおいて、この印鑑部分のみが色が付いています。
他の印字とは異なるこの部分を詳しく見ると、コピーかどうか判別することができます。
・印鑑が裏まで染みているか
朱肉を使って捺印するため、他の部位とは異なり本物はインクが裏まで透過していることが多いです。
・印鑑の色が濃くないか
カラーコピーを行うと、朱肉の色がやや濃い目で印刷されます。
朱肉の色にもよりますが、朱肉が朱色の場合は赤寄りに、赤色の場合は黒っぽくなります。
・セロテープで朱肉が付いてくるか
本物であれば印鑑部分に軽くセロテープを押し当てると印鑑が薄っすら移ってきます。
コピーの場合は何も移ってきません。
部位②全体の印字を確認しよう
便宜上、この部位に数字を置いていますが、正しくは処方せん全体の印字についてです。
本物は単一色で印字されることが多いですが、カラーコピーの場合は複数の色で構成されています。
良く見たときに文字が滲んでいるように見えるのもそのせいです。
また、コピーされた処方せんは全体的に暗く、裏面との色の差で判別できるときもあります。
部位③コピーガードを確認しよう
処方せんによってはコピーされたときのみ文字が浮き上がるコピーガードが施されている場合があります。
コピーガードの文字が浮き上がった処方せんは当然OUTですが、本来コピーガードのある処方せんを発行している病院にも関わらず、コピーガードが無い処方せんを発行してきた場合も注意が必要です。
変造処方せんの見分け方
これは元々が正規の処方せんであるため、前項のコピーの見分け方は通用しません。
必要な個所に訂正印が押されているかを確認しましょう。
・処方せん発行日
・処方内容(薬品名、数量、日数など)
・手書きで追加された後の【以下余白】
その他、筆跡やペンの色なども確認しても良いでしょう。
偽造処方せんを受け取った後の対応
明らかに偽造処方せんと分かる場合、当然ですが薬を調剤してはいけません。
持ち込んだ人物の身元が明らかであれば、いったん処方せんを預かる旨を伝えます。
身元不明の人物であれば、連絡先を確認します。拒否されるようであれば警察へ通報しても良いです。
向精神薬、麻薬を含む処方せんであれば必ず警察へ届け出ます。
その他は保健所へ連絡し、指示を仰ぎます。
その他連絡すべきは処方せん発行元、薬剤師会などが挙げられます。
偽造処方せんを受け取った場合は証拠品ですので絶対に返さないようにしてください。