
毎年10月頃からインフルエンザの予防接種が始まるのは、医療従事者からすると一種の風物詩となっています。
乳幼児から高齢者まで毎年幅広く行われている唯一の予防接種でしょう。
乳幼児や高齢者、呼吸器疾患など基礎疾患のある方にとってインフルエンザは命取りとなりかねない感染症です。
インフルエンザ予防接種を受けるに当たって、気を付けたいアレルギーはあるのでしょうか。
インフルエンザワクチンの作り方から順番に見てみましょう。
目次
インフルエンザHAワクチンができるまで

鶏の有精卵を38~39度で約11日間孵化させた孵化鶏卵にワクチン製造株を接種し、培養、採液、精製、エーテル処理を行ってワクチン原液とします。このワクチン原液製造は3月から7月までの5カ月間、ワクチン製造株ごとに行います。
出来上がった3株のワクチン原液から最終バルクを調製し、バイアル瓶に小分けします。その後、国家検定を受け、合格した後に、包装、出荷となります。
卵アレルギー
製造過程で鶏卵を使うので、製品にはわずかに卵由来のたんぱく質が含まれています。
このため、従来は卵アレルギーの人は専門機関での接種が勧められてきました。
しかし、2017年12月19日に米国アレルギー・喘息・免疫学会(ACAAI)からインフルエンザの予防接種前に卵アレルギーの有無を確認しなくても良いとの見解が出ました。
これはワクチンに含まれる卵由来のたんぱく質は極々微量のため、アレルギー反応を起こすほどではないとの判断です。
尚、この判断は「Annals of Allergy, Asthma and Immunology」2018年1月号に掲載されています。
水銀の影響
インフルエンザワクチンなど、複数回取り出す可能性のあるバイアルに防腐剤としてチメロサールが古くから用いられています。
化合物名はエチル水銀チオサリチル酸ナトリウムであり、その名前が示す通りエチル水銀を含んでいます。
1990年代に自閉症など発達胃障害への影響が大きく取り上げられましたが、その関連性は証明されていません。
また、エチル水銀の代謝排泄の速度は速く、現在は接種することの利益がその懸念を上回るとされています。
マクロライド系抗生物質へのアレルギー
麻疹ワクチン等の生ワクチンは組織培養で製造されるので、製造過程で細菌の混入を防止するために抗生物質(エリスロマイシン、カナマイシン)が使用されているためワクチンに残ってしまいます。
ただしその量はごく微量で、予防接種を受けた子どもが抗生物質(エリスロマイシン、カナマイシン)に対しアレルギーを起こしたという報告はほぼありませんが、念のため注意すべき項目として挙げられています。
一方、インフルエンザワクチンは、大量に培養されたウイルスを集めて精製した後、加熱やホルマリン等の薬剤を用いて処理し、病原性を消失または無毒化した不活化ワクチンであり、抗生物質は含まれません。
以前はバイアルしか流通していなかった不思議
インフルエンザワクチンの使用用量は以下のように定められています。
6ヶ月以上3歳未満のものには0.25mLを皮下に、3歳以上13歳未満のものには0.5mLを皮下におよそ2~4週間の間隔をおいて2回注射する。13歳以上のものについては、0.5mLを皮下に、1回又はおよそ1~4週間の間隔をおいて2回注射する。
出典:ビケンHA添付文書
上記のように多くても1回に0.5mLしか使いません。
それにも関わらず以前まで1mLのバイアル製剤しか流通していませんでした。
バイアル製剤は1回で使いきれないためにチメロサールを加えて安定化させています。しかしそれでも開封後1日で廃棄する必要があり、当日中に使いきれなかった分は廃棄されています。
現在でこそ0.5mLのシリンジタイプの使い切り製剤が販売されていますが、そこに至るまでに長い月日がかかっていることに疑問が生じます。
- 使い切りでないためにチメロサールを添加する必要がある
- バイアルから必要分を取る作業が必要となり、ミスが発生する可能性がある
1mL製剤しか販売しないデメリットは上のようなことが考えられますが、これは医療従事者や患者側からのデメリットです。
おそらく製薬会社からすると、製剤の多規格化は製造や管理のコストが膨らむために1mLバイアル製剤のみの流通で長年通してきたのでしょうね。
1歳未満の乳児へのワクチン接種は?
添付文書上では6カ月以上であれば接種することができます。
しかしながら1歳未満での接種によるインフルエンザの予防効果は十分であるという調査結果がありません。
これは1歳未満では免疫機能が十分でないためであると考えられています。
そのため医師によっては推奨していない場合もあるようです。
しかし、循環器、呼吸器系の疾患があったりする場合はインフルエンザの感染が重篤な症状を引き起こす可能性もあるため、かかりつけの医師との相談が必要でしょう。